14.年末年始の家族旅行・2

目が覚めると、父とおばあちゃんが大きなガラス窓から、外を眺めていた。私たちの泊まった部屋の窓は、まさに「東向き」。三河湾から今、昇ろうとしている太陽が、水平線を薄ピンク色に染め出した。

こんなことを言っては不謹慎だが、「初日の出」を拝む習慣がスペインにないので、ここ二十年近くすっかり忘れていた。
「ま、ま、まさか、これが初日の出?」

なにしろスペインで二十年もミュージシャン生活をしていたので、大晦日といったら一年で一番の稼ぎ時。ディナーと共に弾き始め、十二時にカウントダウン、それから音楽機材を搬出して・・・。で、家に帰ると、夜中の二時過ぎ。それから遅い夕食を取り、やっと眠りに着く、というパターン。だからいつも元旦の朝は、お昼近くまで寝ていた。初日の出も何もあったもんじゃない。

2015年にべラが亡くなったのをきっかけに、私は音楽屋生活をやめた。そして今、こうして「大晦日&元旦」というものを、改めて再体験、再発見している。という具合。

で、初日の出、なのである。が、これがもう感動。二十年以上ぶり。一年の始まりは、こういうものだったのだ。その初日の出を、家族と眺める。なんてすばらしいんだろう。どんな絶景より、心に沁みた。

そして、朝食も大満足。お雑煮に始まり、縁起のよさそうなものがちょこちょこと並んでいる。すばらしい!スペインなら元旦の朝食といっても、パンとコーヒーくらい。あぁあ、ニッポンが大好きになってしまった。なにしろスペインから訪日なので(笑)。再発見の旅。

朝食後は、「三河萬歳」があると言うのでロビーへ。最初「漫才」かと思い「初笑いなのかな」と思ったら、すみません。三河の文化遺産だそうで。縁起担ぎの慣わしなのですね。

心もお腹もいっぱい。年末年始の家族旅行。
「楽しい思い出がほしい!」
という私の無理なお願いを、かなえてくれた秀兄ちゃん、敦美お姉さん、あっ君、おばあちゃん、そして父。みなさんありがとうございました。

家族が集まる。って、いいな。こんな機会を、べラと母にも持ってもらえたらよかったのに。私が風来坊で、スペインに行ったきり坊主だったから、こうして「家族で年末年始を旅館で過ごす」ことさえ、思いつかなかった。何も企画しなかった。

ベラ、ママ、ごめんね。今さら遅いけど、きっと私たちの笑い声を聞いて、二人とも形原温泉に一緒に来てくれたよね。家族旅行でエネルギー充電!またスペインへ戻っても、がんばろう。