聖なる書「I ・CHING」とは

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本棚の大整理を行い
なんと蔵書の70パーセントを
大処分してしまった。
ま、もう一度読みたくなれば
引き取り先の友人の家を
訪ねればいいんだし。

さて、ベラが大切にしていた本
数十冊を寝室に置き
最近、寝る前に
少しずつ読んでいる。

その中でも、筆頭は
ベラが「聖なる書」として
シルクの布に包んで保管し
ときどきコインを投げて
儀式を行っていた
「「I ・CHING」
であろう。

日本語では「易経」。
中国に伝わる古い占いで
昔は戦の折りにも
「今、攻めるべきか」
「ここは、待つべきか」
などを易経に尋ねた、という。
まさしく聖なる書、なのだ。

で、話を戻すと
ベラは何か決断するとき
この本を取り出してきては
床にあぐらをかいて
20分ほど瞑想した後
「ほいっ」
と、コインを3枚投げ
棒のような図柄を
ノートに描きつけていた。

これまで見ているだけで
やってみたことはなかったのだが
「よし、『I ・CHING』に
相談してみよう!」

私のこれからは
いったいどうなるのか。
ピアノ教室だけで
食っていけるのか。
ピアニストは続けるのか。
絵を本格的に描き始めるのか。
あるいはもっと別の
仕事を探すべきなのか。
それとも日本へ帰るべきなのか。

「今こそ、中国2千年の知恵を
お借りする時がきた!」
そのとき私の脳裏にはなぜか
中国人の白髪のおじいさんが
長い顎ひげをいじりながら
「ふむっ」
などと言っている姿が
浮かんでいた。
「よ、よ、よろしくお願いします」
急に腰が低くなる。
面持ちは仙人のよう。

さっそく、3枚のコインを
お守り袋から取り出す。
「コインを入れる小さな袋がほしい」
と、べラに頼まれて
大須観音でわざわざ
お守り袋を購入。
そんなことを懐かしく思い出しながら
まずは、第一投。

一つ目の質問は
「このまま一人で
ピアニストを続けていくべきか」

深い質問だ。
中国人のおじいちゃんは
ちゃんと答えてくれるのだろうか。
コインは計6回投げ
その表裏の組み合わせにより
棒のような図柄を
ノートに書きつけていく。

最終的に
その6本の棒の図柄によって
聖なる数がはじき出され
聖なるメッセージが届けられる
という仕組みである。

「さて、と。どれどれ・・・」
自分の数字のところを
さっそく探してみる。
「あった、これだ!」

易経の魅力は
その哲学的&詩的な
文章にもあると言われている。
「ここから意味をくみ取れ」
ということなのだが
さて、肝心の結果は。

「うわぁあ~っ」
私はのけぞりそうになった。
中国人のおじいちゃんは
力強く言い切った。
「この数のシンボルは『旅』。
愛する者を失い
これから孤独な旅が
始まるであろう」

なんという。
さすが、中国2千年の味。
じゃない、知恵。
「どうしてわかったのかな」

どきどきしながら
読み進める。
結果から言うと
「孤独なさすらいの時期」
に、今の私はあるらしい。
結果を求めず
初心を貫いて進むがよし。
と、おじいちゃんは
結んでいた。

そうして次々と
私は質問をしていった。
「スペインから日本に
生活の場を移すべきか」

おじいちゃんは、容赦ない。
「シンボルは『沼』。
そこに行ってはいけない。
底なし沼が見える!」
「ぎゃああぁ~」

「今いる所にとどまり
努力をするがよい。
耐える時期。逃げてはならない。
努力を積み重ねれば
幸運に転ずる」
「マラガでがんばります・・・」

面持ちは穏やかだが
じいちゃん、言うのう。
そうだ、逃げ腰で尋ねたから
いけないのだ。
今度はやりたいことを
直接、聴こう。
「絵を描きたい。
本格的に創作の道に入りたいです!」

すると、不思議なことが起こった。
これまで厳しかった
じいちゃんの表情が
ふっと和らいだ。

「シンボルは『成功』。
今始めるがよい。
おごらず積み重ねれば
大きな幸運へつながるであろう」

ぎゃー、ほんと?
占いとはいえ、うれしい。
「がんばりまっす」
思わず、鼻の穴も広がる。

ケント紙100枚
腕を麻痺させて
持ち帰った後だけに
がぜん、やる気がわいてくる。

るるる~ん、と
鼻歌を歌いながら
ケント紙をリビングに設置。
しかし、重いな。
あの状況だったから運べたが
今からもう一度
お店に持って行け、と言われたら
もうできないかも。

しかし、今頃じいちゃんは
長いひげなどいじくりながら
「やりたいことをやるのが
一番なのじゃよ」
と、中国2千年の知恵の後ろで
ほくそえんでいるような気がする。