ベラのこと・14「ブログを毎日書きましょう」

先日、shiroさんから
「看護しながらブログを毎日更新して・・・」
というコメントをいただき
はっと思い出した
ベラらしいエピソードがあるので
今日はそれを書きたいと思う。

さすがに看護に追われ
パソコンは夜9時過ぎに
「やっと電源を入れる」
という状態が続いていた。

すでに「イスに座っている」
という状態がほとんどなく
いつも中腰で心身ともに
「用意、ドン!」
の状態になってしまい
「何かを落ち着いてする」
「考える」
ということが
この2か月まったく
なかったように思う。

が、別の能力がアップした。
戦場で前から飛んでくる銃弾を
次々とかわし、進んで行くような
「究極の対応力」
とでも言おうか。
もう何が来ても驚かない、くらいの
肝の座りようだった、と思う。

で、話を戻そう。
夜、ベラの夕食&薬が終わると
パソコンの電源を入れる。
「あー、何を書こう」
思い浮かぶことが、何もない。

いや、書こうと思えば
ネタは山のようにあるのだが
私の意識が完全に
「緊急体制」に入っており
思考に回ってくれないのである。

「前から飛んでくる銃弾」に
いつも構えている状態で
文章を書くのは、難しい。

「あー、もうブログを
今月はお休みしようかな」
正直、もう無理だと思った。
ブログを書く時間があれば
ご飯を食べたほうがいい。

そのときだった。
ベラがむっくりと体を起こすと
「ブログをやめてはいけないよ」
と言い出した。
「でも、もう無理だよ」
なんだか涙が出てきた。

「聞いたか読んだか忘れたけど・・・」
ベラは痛い首を
手で支えながら体を起こし
私に座って聞くようにと
ほいほい、と手招きをした。

それは
「貧しいバイオリニストの話」だった。
ボロボロのアパートで
バイオリニストが一人
絶望的な気持ちで立っている。
仕事がない。演奏ができない。
食っていけない。

「もう、だめだ。
バイオリニストをやめよう」
そう思って、最後の曲を弾く。
「確か、バッハだったような気がするけど・・・」
と、ベラは頭をかしげた。

その曲を弾いていると
アパートの下の階で
ガタゴトと音がする。
「なんだろう」
と思っていると
突然ドアをノックする音。

ドアを開けるとそこには
下の階に住む
やはり貧しい隣人が立っていた。
悲痛な面持ちの中にも
不思議な生命感が漂っている。
男はバイオリニストの
手を取ってこう言った。

「実は今、自殺しようとしていた。
そしたらあなたのバイオリンが
聴こえてきて・・・
その音色を聴いていたら
涙があふれて止まらなくなった。
死ぬのはやめようと思ったんです!」

バイオリニストは、驚いた。
絶望して死のうと思っていたのは
自分の方だったのだ。
そんな自分が
誰かに生きる希望を与えていただって?

「だから、そういうこと」
と、いきなりベラは言った。
「えっ、ええっ、何が?」
このいい話と
ブログのつながりがわからず
私は聞き返した。

「だから、ももは毎日
ブログを書かなきゃだめだよ」
「・・・・・」
「ブログが更新されていなかったら
自殺しようと思ってる人が
世界のどこかにいるかもしれない」
「いや、それはないと思うけど」
私は即答した。

すると今度は
「ぐふふふ」と笑いながら
言葉を変えた。

「だからー、もも。
大切なのは『続ける』ってことだよ。
そのバイオリニストは
貧乏で名も知られていない
しがないバイオリン弾きだ。
でも、劇場で弾いている
どんな有名なバイオリニストより
すごいんだ。
だって、人の命を救ったんだよ。
バイオリンで。音楽で。
誰も知らない出来事だけど
それは起こったんだ。
どうして?
『弾き続けた』からだよ!」

今度は
私の脳みそにも入ってきた。
「続ける、かぁ」

継続こそ、力なり。
ということわざがあったが
それだけでなく
「こんなダメな今日の自分でも
 誰かの役に立っている」
と、この話は
言ってくれているような気がした。

そして、首が痛いのに
わざわざこんな話をしてくれるベラと
そのボロアパートの
バイオリニストの姿が
なぜか、重なった。