痛くて悲しいオラウータン

ベラの「痛い痛い状態」は
今日も続いている。
午前中はほぼ、寝たきり。
午後にのっそり起きてくるも
「あいたたたっ」
と数分で、ソファに沈み込んでしまう。

大好きなバイオリンも弾けず
せっかく購入した「足こぎマシーン」も
部屋の隅にしまわれたまま
仕方なく、虚ろな目でテレビを眺める。

「いたいです」
「そうだよね、フルーツでも食べる?」
「何があるの?」
「メロン、さくらんぼ、桃、リンゴ、バナナ」
「じゃ、今日は桃にします」

大好きな果物を手に
ソファでひっくり返っている姿は
まるで「オラウータン」のようである。
が、痛くて悲しいオラウータン。
早く木に登りたいよね。
なんとか楽しませる方法はないものか。

そのときであった。
テレビをぼんやり見ていたベラが
驚きの声を上げた。
「うわあーっ、エルビスプレスリーの
レントゲン写真や、血液検査の紙が
すごい高価で売られてる!」
「そりゃ、エルビスプレスリーなら
ありえるんじゃない?」
「ねえ、僕の検査結果、取ってある?」
「あるけど」
「いつか価値が出るかも。売れないかなぁ」

エルビスプレスリーだから
価値があるのだ。
「誰が買うんだ」
という言葉を飲み込む。
相手は病人なのだ。
痛くて悲しいオラウータン。

「レントゲン写真、売れないかなぁ」
桃をほおばり
ソファでごろごろしながら
オラウータンは、夢想する。
「あああっ、そういえば!」

再び、ガバッと起き上がるや
「あの歯医者で撮った
散弾銃が写ったあごの写真
あれは価値あるかも、ねぇ!」
「・・・・・・」

少なくとも、この数分は
痛みを忘れたのにちがいない。
よかったね。